シニア猫の去勢


去勢、避妊共、適正時期というのは一般に生後半年あたりと言われています。
では、適齢期を超えたシニアクラスの猫では何か問題があるのでしょうか?
我が家のぶちは5才近くになってやっとこれに至りましたが、その辺の経緯と成果についてです。
私は去勢推進派ではありませんし、本来人間にそんな権利はないと今でも思ってますが、 家猫においてこれは自然論以前の問題ではないかとも思います。
という事でWordsのコーナーは猫と付き合う上での少し真面目な話しをするつもりです。

早期去勢の根拠として挙げられているのは、発情行動が出る前に手を打つべしというのが第一にあるようですが、それ以外に言われる事が、

・年齢を経てからでは習慣化された行動が治り難い(スプレーなど)
・FUSになりやすくなる。

などがあります。 また、年齢以前に手術自体のリスクとして、

・極度に緊張しやすい猫の場合、麻酔で死んでしまう可能性もある。

と医者に忠告されています。 私もその辺を重く受け止めていたため、ぶちを去勢に出すかどうかは随分迷いました。 また、個人的には歳を経てからそのような変化を体に与えると、

・骨抜きというか、フヌケというか、変わり果ててしまわないか?

という懸念も真剣にありました。私は猫というより、ぶちのパーソナリティを含めて好きだった訳で、 こうしたものが失われる事にも躊躇、不安がありました。

医者や、自然食関係で利用してるネットショップの人の意見を聞いた所では、効果、FUS、あるいは麻酔等の危険も、

・年齢というより個々の体力、体質に因るもので、実際には高齢での不妊のケースはよくある。

との事でした。年齢それ自体の問題ではないけど。。若い方が強いと考えるのは当然ですね。人間の40才手前にあたる5才というのは微妙な位置かもしれません。
ただ、

・ストレスは確実に緩和される。

そうです。これだけでも手術の意義はあるかもしれません。 「あまり去勢にこだわらなくていいと思うけど、飼ってる事情を考えたらしちゃった方がいいのかな」というのが最終的な医者の意見でした。
その医者は、責任回避のためか、本人の医療感かは不明ですが、手術や麻酔のリスクということを再三聞かせる人で、

・去勢、避妊といっても決して安全な手術というものではない。

と毎回聞かされています。 こう言われると自分としてはラクな方へ逃げたくなるのですが、我が家の環境上やはり前へ出るしかなかった訳です。

ぶちを家に連れてきたのは彼が2才のときで、当初から「去勢すべし」というのは解っていました。 環境的に完全室内飼いにするしかなく、それで問題なく済んでいる訳などあり得ません。 終始彼は外へ出たがり、騒ぎ続けました。 私も一晩中猫の相手などしてられませんから、イライラした彼はこれ見よがしに壁にスプレーをしたり、 カメラバッグや毛布にオシッコをしたり、”悪事”とわかっている事を繰り返しました。 また、カーテンや洗濯物に飛びつくだけではなく、そこからベッドに寝ている私に向かって飛び下りてきます。 これは私にとっても結構危険で、口元と目頭を切っています。。
とは言え、こうしたぶちの痛快な、ある程度定型化した行動をパーソナリティの一旦として楽しんでいたのも事実です。 何が発情系で、何が自然系という事はスプレーなどを除けばわかりませんし、確実に言えるのは、ぶちの存在と力感を強く感じる、という事でした。
また、ぶちのこれら問題行動は、あくまでバイオリズム上の一端であり、部屋の中での私との生活を受け入れている部分も充分にあったのです。でなければ、とっくに本来の場所へ返しています。
リスクを案ずる前に、どうして直ぐに去勢しなかったのか。。という話しはここでのテーマ(シニア去勢)からも外れますし別の機会にするとして、家猫として中途半端な状態にぶちが苦しみ続けてきた。という事実を、ネコバレによってシビアに考えるようになったというのは飼い主失格を宣言するようなもので、情けないことこの上ありません。


結局、ぶちの体力を信ずる以外、私に何ができたでしょう。。先ず手術が無事に終ったという段階で、世の中が全て美しく見えました(笑)。 引き取って直ぐにわかったのは、全体的な力感のなさです。 入院体験のショックのためか、とても大人しかったのですが、顔を近付けたらいつもの様にゴロゴロ始め、 ちょっかいを出したときの反応なども、普段のぶちでした。 ただ、全く鳴くことがなく、ぶちを大好きだったまなかが、見知らぬ猫をと接するかのように、威嚇行動をはじめました。 「こいつはぶちではない」と、人にはわからない何かを読み取っているのかのようです。
・・何かが違っていました。

例えば、普段のぶちと私の典型的な遊びです。。寝そべっているぶちの顔に、私の顔でちょっかいを出すと、ぶちはネコパンチを装い手を出してきます。即座のときもあれば、間合いを見ておもむろに来る場合、フェイントをかけて逆の手でジャブみたいに来るときもあります。爪など引っこめたりしませんので、避けそこねれば血の出ることもありますが、向こうもちゃんとスピードを加減しているのです。ちなみにこれが鼻の穴に入ったりすると洒落にならない痛さです(笑)。この繰り返しの中、やがて私の腕につかみかかるようになり、ネコキック炸裂に展開、そのときの実に爽快そうな顔といったらありません。
ところが退院してきたぶちは、ネコキックに至らない。。そこまで溜まってないから・・という具合でした。
結局その夜はそれまでとは考えられない程静かで平和(笑)だったのですが、少し寂しい気がしました。

今までのぶちの数々の行動を振り返り、安らかになったように見えるぶちから、何が消え、何が残ったのか。「ぶちはぶちのままでいてくれるだろうか・・」という、まるで外へ出ていった猫が帰って来るかどうかを案じているような、未練がましい心境に満ちていました。
そんな思いで帰宅した翌日、ぶちは今まで通り、玄関口まで私を迎えに来たんです。 ひゃんひゃん言って私の足周りを一周し、自分から先に部屋の中へ入って行くという、いつも通りのパターンをしっかり実行していました。 おそらくここ数年、この時以上に嬉しかった瞬間はありません。 私とぶちのコミュニケーションの根底にあり、私自身の支えになっていた部分は、変わってなかった事を意味するからです。・・っとそれは後からつけた理屈ですが、とにかく部屋から出てきたぶちの頭を見て、もう嬉しくてたまらなかったのです。 私はたぶん、初めてぶちに「ありがとう」と言ったんではないでしょうか。。考えてみればこうして声をかける ことを暫く忘れていた気がします。心から出た言葉というのは、それを出した気持ちが伝わりますね。猫の顔を見ていればわかります。

翌々日、カーテンから私に向かって飛び下りてくるぶちで目が覚めました。 結局、素行のほとんどが復活したんです(笑)。
窓を開けろ!外へ出せ!だったらカーテンジャンプだ!洗濯物ジャンプだ!勝手に風呂に入るな!パソコンやるな!・・・ちょっと以上に頭が痛かったんですが、そのくらいで正直安心でした。
では、効果はやはりなかったのでしょうか?
経緯をぐたぐた話しでも分りにくいですから、以下に整理します。

変わった点、
・全体に漲る力感や押しの強さが減少した。
・声が軟らかくなって以前ほど響かなくなったし、大声で吠えることもなくなった。
・外への「執着」が「好奇心」程度になり、一回、抱いてベランダに出てやれば満足するようになった。
・スプレー、反則オシッコは完全になくなった。
・夜中に起きて騒がなくなった。

変わらない点、
・性格、素行の全て。。今ではネコキックも復活し、猫のほうから飛びついて来る事さえある。

生後半年余りで去勢した篤郎と、5才手前で去勢のぶちは、現在毎日のようにケンカ(決闘ではない)をしていますが、これといった優劣などはありません。両者の間に性格以外の違い、つまり去勢効果としての違いは無いと言っていいと思います。
ちなみに他所の猫への対応として、相手がオスかメスかで、去勢した筈の2匹の態度が全く違うという事は何を意味してるのでしょうか?(笑)
ウチのベランダには近所の猫がよく姿を見せるのですが、それがオスだと両者共、威嚇警戒行動に出ます。ぶちなどは一度飛びつこうとして網戸を破っています。
最近、とても可愛らしい、思わず中へ入れてしまいたくなるような、本当に可愛らしい、1才程度のメスねこちゃんが現れたのですが、この時の両者の「ほにょお〜・・」という情けない声でジタバタ落ち着かない様は、オス相手のときと明らかに異なっている!! まなかは全くそんな声は出しません。。
この事は一体何を意味してるのでしょうか?
ともあれ、問題行動云々よりもストレス軽減によって彼は明るくなり、今まで以上に仲良くなれたという感じがしています。

ぶちはぶちのままだった・・まなかも元に戻りました(笑)。 (2003.12.20)
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